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構造技術者の賞『JSCA賞』

第16回JSCA賞 作品賞 中国木材名古屋事業所

 
建物内観写真
建物外観写真

建物概要と構造計画

本建物は、中部地方以東の新しい営業拠点として計画され、設計コンペを通じて実施された。建築空間は、防火区画のRC造のサポートコアを中心として、事務所ゾーン、会議・研修室ゾーンが各レイヤーに明快に構成されている。このような建築意図に対して、構造計画も各ゾーンでの機能に応じた構造システムの提案を行った。

展示スペースと一体になった事務所空間(約33m×16m)は、傾斜した一方向吊形状の屋根面に覆われており、本建物の外観を印象づけている。このデザインは、木構造の新しい可能性を建物自らで発信したいという施主の意向にも合致している。この屋根に対して、新構法「集積型木質吊屋根構造」を開発・実施した。本屋根は、水平力に対して、長辺方向を鉄筋ブレース、短辺方向はエントランス側にある木造トラスを耐震要素としている。

集積型木質吊屋根構造の概要

事務所空間の屋根に対する建築家のイメージは、「離散化した木の部材を一面に敷き並べ、一枚の軽やかな膜面として表現する」というものであった。この建築家の意図と、施主が製作可能な部材で構成できる屋根として、「集積型木質吊屋根構造」が考案された。

吊り形状の木質屋根構造としては幾つかの手法が提案・実施されている参考文献 2)、3)が、これらと比較した場合、「集積型木質吊屋根構造」の特徴としては、

1. 敷き並べた小断面木材を、木材の繊維と直交方向に配置したケーブルにPSを導入することで、一体化すること、
2. 木材間の局部的な微小な離間を許容していること、
3. 木材の繊維と直交方向の低剛性を積極的に利用すること、
図1木材間の離間の許容の
有無による屋根断面の比較
図2実施建物の部
材構成と部材断面
などが挙げられる。

これらの内、1.は従来の吊床版構造と同様なものであるが、2.3.が加わることにより、本構造のユニークな特徴や利点が発揮されている。

一例として2.の効果を図1に示す。ここに示す二つの屋根断面形状は、いずれも竣工時の曲げモーメント(0.75tfm)および湿度変化に伴う設計用ひずみ変化(±2400μ)の発生下で、発生応力が長期許容応力度以下になるように断面を求めている。(a)は木材間に離間が生じない条件下で得られたものであり、コンペ時の設計思想に相当する。一方、(b)は上記2.の思想を考慮したものであり、(a)に比べ断面のせいが30%以下まで低減されている。なおこの時の木材間の離間長さは最大でも0.3mm程度であるが、これは3.の効果によるものである。 図2に最終的に採用された3m幅の1ユニットの部材断面を示す。1ユニットあたりのPS導入量は約20tfである。

集積型木質吊屋根構造の特徴

本構造システムの特徴及び利点を以下に示す。

1. 単純支持状態の形状は、木材の断面性能以外にPS量によっても決定される。
2. 木相互はウッドタッチによる応力伝達を基本としており、接合金物を大幅に減少させることができる。
3. 形状形成後、境界条件をピン支点に変更することにより、形態抵抗系への変換と共に、剛性向上、木材の乾燥収縮に対するフェイルセイフの確保、クリープに伴う悪影響の回避等が可能である。
4. 構造体表面への鋼板設置による付加荷重時の剛性向上が可能である。本建物では、上面に厚さ9mmの補強鋼板を配し、ケーブルとの距離により曲げ剛性の向上を図っている。
5. バネや低剛性ストリングの組込みによる乾燥収縮時の木材の離間の回避が可能である。
6. 木材の繊維と直交方向の低剛性を利用できるため、木材は屋根形状に応じた台形断面ではなく、矩形断面が適用可能である。また木材の加工は簡単な穴あけ作業のみである。
7. 屋根面の小梁や面内ブレースが削除できる。
8. 構造材が、そのまま仕上げ面としても利用できる。
9. 本構造は集成材以外に、間伐材への展開も期待できる。
 

図3に代表的な施工法として、本建物で採用した施工順序を示す。本構造は木材間の離間を許容しているため、施工に伴いケーブル張力が変化する(図4)。

  屋根施工写真
図3本建物の施工順序
図4施工に伴うケーブル張力と形状の変化

参考文献

1)
日本建築学会、「木質構造設計規準・同解説」(1995)
2)
佐藤,皿海,他、「サスペンション型張弦梁を用いた半剛性・半自碇式吊り屋根の計画と施工(その1、2)」、AIJ大会(2003東海)
3)
斎藤、岡田、宮里、岩渕、梅澤、「集積型木質吊屋根構造の構造特性に関する基礎的研究(その1、2)」、AIJ大会(2004北海道)
4)
岡田、多田、「半自碇式吊屋根構造の提案と実現」、建築技術(2004.5)
5)
斎藤、岡田、宮里、梅澤、長嶋、樋口、「集積型木質吊屋根構造の構造特性に関する基礎的研究(その3、4)」、AIJ大会(2005近畿)

文・資料提供:岡田 章(日本大学理工学部)
多田脩二(多田脩二構造設計事務所)

※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。

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