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『第18回JSCA賞』 作品賞

 
1階 エントランス ロビー

大阪弁護士会館

外観写真

徳田 幸弘(とくだ ゆきひろ)

■建築概要・建築計画

この建物は大阪弁護士会の新会館として法務合同庁舎跡地に建設された。水の都大阪を代表する「中之島」の景観との美しい調和、そしてその景観を享受し、自然の光を建物の隅々まで採り入れる、静かで人に心地よい建物であること、さらに大阪弁護士会のシンボルとして、活動の透明性、市民への開放性、組織の永続性、環境への配慮という弁護士会の理念を建物全体で表現する計画となっている。5階以上の基準階には各種会議室と事務室、低層部には1~3階吹抜けのエントランスと2階には全会員による集会も可能な大会議室を有する。1階には市民が訪れる相談室、地下にも市民が利用できるレストランがあり「市民に開かれた会館」を目指して計画されている。

1階平面 6階平面
短辺方向 断面図
建築場所 大阪府大阪市北区西天満1丁目1-2 建築面積 2251m2
主要用途 事務所、自動車車庫 延床面積 17005m2
階  数 地上14階、地下2階、塔屋1階 高さ SGL+55.25m
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■構造計画の特徴

制震構造といえばダンパーを全階に配置する分散型が一般的であるが、今回は、地下1階をソフトファーストストーリーとして集中的にダンパーを配置(B1階集中型制震)した。この構造概念は古くからあるものの、この規模の事例としては日本で初と思われる。本建物では、地震時の弾性変形を意図的に大きくしたソフトストーリーに集中的にダンパーを配置する事により減衰性能を十分に発揮させ、免震構造に近い耐震性を確保しつつ、一般の分散型制震と同等の経済性を実現している。 さらにその特徴を生かした既存地下外壁の本設利用も行っている。 以下に構造概要を示す。

基礎地業 直接地業 べた基礎  
構造種別: 構造形式 地下1階以上
地下2階
鉄骨造(柱一部CFT造)、
SRC造 一部RC造
架  構 地  上
地下1階
地下2階
軸ブレースおよび鋼板耐震壁付きラーメン架構
制震デバイス付きラーメン架構
RC耐力壁付きラーメン架構
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■構造計画上の課題

南側立面
集中制震層オイルダンパー
地下1階レストラン

以下3点が構造計画を行う上での重要な課題であった。

(1)建築計画と整合するファサードの実現

建築計画の方針に基づく「透明感あふれるファサード」として外周のフレームを柱・梁ともできるだけスレンダーにして見せ、その中に無柱空間を持つガラスの箱としてのオフィスを形成するスケルトンを実現する。

(2)高い耐震性能

建築主との建設委員会会議(ワークショップ)を通じて、この建物に必要な耐震性能を説明し、コストとのバランスの中で要求に見合う耐震性能を確保する。

(3)既存地下躯体利用

既存地下構造物の本設・仮設利用を行い解体廃棄物や騒音の軽減という環境負荷を押さえた計画としながら、本設利用部位には新築と同等の耐久性能を既存躯体へ付与する。

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■集中制震構造を中心とした技術による課題の解決

●(1)繊細で安全な外周フレームの架構計画
(建築計画と整合するファサードの実現と、高い耐震性能の確保)
以下の2つの構造的な解決により、高い耐震性能を確保しながら柱径300mmφ、梁せい250mm(仕上寸法は共に450mm幅)の2700mmピッチスパンで構成された「透明感」のある外周架構を実現している。

1-1)集中制震構造による上部架構の応答低減

層間変形で見る制震効果

本建物では、B1階柱に、SA440材相当の肉厚小径の円形鋼管(遠心鋳造)を採用し、さらに柱脚をピンディテールとして、B1階を他層と比較して水平力に対し柔軟で弾性限変位の大きい層とした。その結果、高さ約55mの建物では1次固有周期が通常1.5秒程度になるのに対し、鋼材ダンパー降伏後の1次固有周期を約2.0秒に設定でき、適切な減衰を与えることによってレベル2地震動時の最大層間変形角はダンパーを配置しない1階以上で約1/100に留めている。ダンパーを集中位置したB1階の層間変形角は約1/70(弾性)で、この階の仕上材の変形追従性に特に配慮している。ソフトストーリーを1階に設けるという考え方もあろうが、外装材の変形追従性を確保するためにはデザインにも制約が生じるため、その問題がほとんどない地下階に設けている。 

高層基準階伏図
長辺方向軸組図
構造概要図
制震層伏図(B1階)
B1階オイルダンパーと地下外壁納り

地震時に大きな弾性変形が可能なB1階に鋼材ダンパー及びオイルダンパーを集中的に配置することにより、力学的には最下層で地震エネルギーの多くを消費し、大地震時の上層躯体の損傷を低く抑えることができる。一方、ダンパーを他の階に配置しないため、他の階にはプラン上の制約が少ない、大地震後のダンパーのメンテナンスはその階を集中的に行えばよいなどのメリットもある。
ダンパーの選定については、中小地震から効果を発揮し、制震層の等価周期を長く保持しながら変形を抑さえる効果の高い粘性型減衰デバイス(オイルダンパー)を主体として考えた。これに実績の豊富さと大地震時の減衰効果のコストパフォーマンスが良い低降伏点鋼材(LY225)を使用した鋼材履歴型ダンパーを組み合わせて使用している。

粘性減衰ダンパー オイルダンパー リリーフ荷重490kN型 8台、1760kN型 10台
履歴型ダンパー 間柱型せん断降伏パネル(PL-6、LY225) 8台
    長辺(X)方向 短辺(Y)方向
ダンパー剛性比 k(=Kd/KF) 履歴のみ 0.74 0.80
ダンパー耐力比 β(=Qd/Qu) 履歴
粘性
0.14
0.45
0.16
0.55

この制震効果により、大地震時(レベル2)のベースシアー係数は最大値で0.29程度となり、上部架構の地震力負担の低減に役立っている。

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1-2)基準階コアへの耐震要素集約と外周フレームの地震時荷重分担の低減

基準階両サイドのコアの柱には、600φのCFTを採用し、ここへ座屈拘束ブレース、耐震間柱そして鋼板壁の耐震要素を集約して配置した。これにより、コアで層せん断力の70%以上を負担し外周架構がスレンダーになっても十分な耐震性能が確保されている。 集中して水平荷重を負担する連層耐震要素付帯柱の引抜き力処理についても工夫をしている。免震積層ゴムでは難しい柱引抜き耐力を充分確保できるピン柱脚部材の採用である。最大引き抜き力7350kNに耐える鋼製球座タイプのピン支承には土木分野で30年以上の実績のある硬質クロームメッキ面と二硫化モリブデン焼付け処理面を接触させる形式を採用している。
建物外周は2700mmピッチに細径(300φ、肉厚の遠心鋳造鋼管)の柱をH-250x250の梁でつなぐという特徴ある架構としている。この部材断面の決定には大地震時の層間変形角1/100を強制変形として与え、柱梁が弾性を保つところまで梁の曲げ剛性を落としていくという手法を採った。
●(2)ピン柱脚の採用と外壁へのプレストレス導入(既存地下躯体の本設利用)
本敷地には、堅固な地下構造をもつ既存建物があったため、新設する地上部と整合させながら、新設躯体と同等の耐久性を確保しつつ既存地下利用を図ることがもう一つの課題であった。
新設と既存の柱位置を合わせることは計画上の大きな制約となるため既存地下は地下外壁と底版だけを残し、新設躯体がその内側に収まる計画とした。ここでも集中制震の採用により断面・平面方向についての地下空間をより有効に活用することが可能となった。B1階柱頭免震と比較しても、1階の梁せいを小さくでき、B1階柱断面がコンパクトとなる。そして必要とされる躯体クリアランスも小さい。既存地下躯体内側の限られた空間に新設躯体を設けることがテーマの1つでもあるこの建物にぴたりと当てはまる構造形式であった。また集中制震構造は以下のように本設利用する既存地下躯体の補強コスト低減にも役立っている。
1)地下1階柱脚をピン支持とすることにより、地下2階の柱頭仕口に個材曲げモーメントが作用しない。またその地震時応答を低減する効果により地下躯体全体に作用する層せん断力や転倒モーメントが軽減される。
2)集中制震層の配置を最下階(地下2階)ではなく地下1階とすることで、制震層との縁切りを必要とする片持ち地下外壁の応力を軽減する。
一部劣化の認められた既存RC躯体については次の方法により躯体の耐久性能を確保している。
3)土に接する外壁部はプレストレス導入と室内側からの補強により耐久性回復の難しい既存外壁外側の鉄筋に頼らない設計とする。
4)室内側は劣化部を除去し、樹脂注入などによる補修を行う。

既存躯体利用概要 地下外壁補強部とダンパー
球座ピン柱脚 断面図 球座ピン柱脚外観

■おわりに

「制震」「粘性減衰型ダンパー」「既存躯体利用」「高強度鋼材」「耐火性能検証」・・・個々の技術や材料は新しい物ではあるが、もはやこの建物のみが持つ最新技術ではない。むしろ実績も充分吟味して採用している。しかしそれらの組み合わせによって実現された集中制震構造とそのフレームのもつ顔はオンリーワンのものであると自負している。


※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。

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