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内観(入口を見る) |
白髪 誠一(しらが せいいち)
鉄の教会は,教団の撤退により残された信者たちによって自立再建された会堂である。建設費は全て信者たちの募金によって賄われるため,低予算での建築計画がなされている。
この教会は建築の最も基本的な形状であるハウス形をしており,梁間方向5.7m×桁行方向10.7m,棟の高さは5.85mである。1階は礼拝室,地下階が事務所兼集会室となっている。
礼拝室の両妻面はガラスブロック,その他の屋根面と桁行の外壁は厚さ9mmの鋼板で構成されている。内部空間は仕上材を省くことで建設コストを削減している。一方で,構造材が全て見えるため,各部の構造ディテールに対しては建築家との協議を重ねて決定している。
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建方状況(1) |
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建方状況(2) |
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建方状況(3) |
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建方状況(4) |
基本計画においては,建設コストを削減するため防水を不要とすること,仕上を塗装のみとすることがコンセプトの一つとされた。これを実現するために,建築家からは建物を鋼製モノコック構造とすることを要望された。
鋼製モノコック構造とするためには,鋼板の継目は全て現場溶接接合とする必要があり,高度な溶接技量が要求され,建設コストも増大する。そこで,桁行方向は鋼板による耐震壁架構,梁間方向はリブプレートによるラーメン架構とする構造形式を採用し,桁行方向には一対のリブプレートを現場高力ボルト接合とする組立て方法を提案した。これにより,現場への搬入および建方を容易にし,現場接合はすべて高力ボルト接合とすることでコストをかけずに鋼製モノコック構造を実現することが可能となった。
外殻に用いる鋼板は,幅1.8m×長さ7.0mの板を軒部分で折り曲げて屋根としている。この鋼板の両側に厚さ16mm,高さ200~100mmのリブ板で補強しパーツ化を行っている。このパーツを向き合うようにし棟部分で高力ボルト接合することで梁間方向にラーメン架構を構成した。それを桁行方向に連続させ隣合うリブプレートを高力ボルト接合することで建物を一体化している。
梁間方向には,屋根の自重によるスラストに抵抗させるためにタイロッドを軒から棟にかけて配してリブプレートのせいを小さくすることを狙っている。また,タイロッドを立体的に配置することで内部空間のアクセントにもなっている。
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架構詳細図 | ||
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タイロッド交差部 | タイロッド端部 | リブプレート |
鉄の教会の内部空間には仕上が無いため,構造材が全て見えてくる。各部の接合詳細は建築設計者や鉄骨製作者と議論を重ね意匠性が高く,かつローコストな構造ディテールを実現している。
棟および軒部分のタイロッド端部の接合部は,一対のリブプレートの間に設けた16mmの隙間にガセットプレートなどの接合要素を挿入する構造ディテールを提案している。このディテールの採用によりガセットプレートを極力目立たなくすることができ,外壁の鋼板とリブプレートの溶接部に対する後処理が不要となり,さらに,リブプレートの断面二次半径を増大させることができるという多くの利点を得ることができた。また,外壁の鋼板の継目には,鉄骨建方の後に防水のためシール溶接を行っている。
礼拝室の空間に配されたタイロッドは最も目立つ構造部材である。特にタイロッド交差部は,空間の中央に有り,設計者と最も議論を重ねた部位である。交差部および端部の接合部には高価な鋳物は用いず,長ナットと鋼板により製作している。また,それぞれの接合部でタイロッドの長さを調整できるようにしており,タイロッドの中間部にターンバックルを不要としている。これにより,細いタイロッドが空間に緊張感を与えている。
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※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。