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写真-2 上部増築後(8階建て)(※) |
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写真-3 既存西棟(2階建て) |
寺田 隆一(てらだ りゅういち)
市役所敷地内に防災拠点をという建築主の要望に対し、既存西棟の建て替えや隣接する既存東・南棟の耐震補強より合理的な方法として、「既存西棟上部に中間免震層を介して増築することにより、建物全体を防災拠点化する」手法を提案し、この建物が実現した。
既存西棟は将来8階建てに増築する予定で設計された、昭和55年竣工の2階建てSRC造建物であった。しかし、1981年基準法改正以前の設計であることから、耐震設計はいわゆる1次設計しか実施されておらず、杭の設計には地震力が考慮されていない状況であった。
一方、発注者の要望は、「8階建てに増築するに際し、既存部,増築部とも防災拠点にふさわしい耐震性能を確保すること」、「情報の心臓部となる6階のコ ンピュータ室は、大地震時の水平方向床応答加速度を250gal以下とすること」、「全ての工事は既存部を使いながら実施するものとし、既存部執務室周りの補強は行わないこと」、「既存建物群と調和したデザインとすること」と多岐にわたり、最適解の模索が始まることとなった。
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図-1 構造概要図 |
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図-2 2階平面図(既存部) | 図-3 基準階平面図(増築部) |
![]() 図-4 振動解析結果 (告示JMA神戸波50cm/sec,Y方向時応答層せん断力) |
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写真-4 完成後の西棟と既存東・南棟(※) |
これらの計画条件及び要望に対して、先ず増築部最下階(3階)を免震層とし、かつ増築部の構造種別を当初想定のSRC造より軽量なS造に変更することを提案した。これにより、既存部に作用する大地震時の応答層せん断力を増築前の1割増し程度に留めることができ、執務に支障のないコア内耐震壁2枚の増厚を行ったのみで、既存部を短期許容応力度以下に留めることができた。つまり建物を使いながら実施できる範囲に工事を限定しつつ、既存部の防災拠点化を達成したというわけである。
また、免震化により大きく低減された既存杭への地震時水平力を、太径場所打ち増設杭(3.6mφ)8本を増設基礎梁を介して既存フーチングに圧着接合することによりさらに半減させ、既存杭についても大地震時に短期許容応力度以下としている。
免震層の特徴は、既存部材へのインパクトをミニマム化すべく適材適所のディテールを用いながら免震部材を分散配置し、かつ増築部を純ラーメン架構とすることで局所への地震荷重偏在を防止することにより、既存部屋根部材の下階からの補強を不要としたことである。また、既存部外壁面を保存する目的で、コンクリート充填の鋼製箱形基礎を考案し、隅角部アイソレータ4基を柱芯の内側に偏心させて配置している。
増築部は、免震化により応答層せん断力が非常に小さくなる点を生かし、既存部より執務室スパンを拡げ豊かな内部空間を確保しつつも梁成を抑え、隣接する東・南棟と軒高を揃えている。外装のエイジングの効果とあわせ、27年の時を経て武蔵野市庁舎群としての完成形を創出できたと考えている。
以上から、本建物は「中間免震層を介した増築」を採用することで既存部を使いながら建物全体を防災拠点化する計画とすることができ、既存部を使用しない場合と較べより経済的・合理的な選択となっていると考えられ、与えられた数々の諸条件に対し、免震構造の特性を十分に活かして理想的な回答を示すことができたと判断される。
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写真-5 渡り廊下(※) | 写真-6 鋼製箱形基礎(コンクリート充填) |
建物名称 | 武蔵野市防災・安全センター |
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建築主 | 武蔵野市 |
主用途 | 庁舎 |
設計監理 | 株式会社日建設計 |
施工 | 大成・沖島JV(建築) |
建築面積 | 405.23m2 |
延床面積 | 4,486.51m2(増築部) |
階数 | 既存部1・2階+3階(免震層)+増築部4~8階・塔屋1階 |
高さ | 31.90m(屋上鉄塔別途) |
構造種別 | 既存部/SRC造,増築部/S造 |
(※)印 写真撮影:三輪晃久写真研究所
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※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。