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写真1 |
篠崎 洋三(しのざき ようぞう)
本プロジェクトは、専修学校「代々木ゼミナール」が,代々木駅周辺に分散していた各種機能を1棟に集約するため建設した地上26階建ての超高層建築である。学校の機能として、教室、学生用共同住宅、事務室など,多要素のプログラムを快適かつ安全な最先端施設として整備することが求められた。
新校舎は次のような特徴を有している。15~16階の建物側面に南北に抜ける大きな開口を有しており、空中キャンパスとして学生たちの憩いのスペースを提供する。この空中キャンパスを境に用途が分けられ、地下1階~14階の低層階が教室・事務所、17階~26階までの高層階が住宅となっている。さらに、住宅階の中央部は空中キャンパスから屋上までの吹抜けとなり、内部まで光を取り入れる計画となっている。図1
RC造壁柱(以下、スーパーウォール)を両妻面全層にわたって配置し、短辺方向の耐震要素を集約して内部空間の自由度を高める計画とした。
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図1諸室の構成 | 図2構造フレーム |
低層階については、コアと教室空間との境界部を利用してブレース構面(以下、コアフレーム)を配置し、長辺方向の地震力を負担させ,全体として大きなH型状のストラクチャーを形成し建物としての剛性と耐震性を高めている。教室内やEVシャフト内の柱には水平力を負担させず、それぞれ外径φ350mm、φ200mmとしてフレキシブル空間を実現した。スーパーウォール以外の構造は鉄骨造とし、コアフレームの柱にはCFT構造を採用している。
高層階は中央吹抜けをはさんで住居スペースとなっており、低層階とは柱配置が異なる。そこで、17階の設備専用フロアを利用してメガトラス架構を構築し、住宅階の自重を両妻面のススーパーウォールに流すこととした。これにより、低層階の大空間教室を可能とするとともに、中間階を無柱空間として開放性の高い空中キャンパスを実現した。
短辺方向はアスペクト比が5.0程度とスレンダーな形状となっているが、メガトラスを介して集められた自重がスーパーウォール脚部の浮き上がりを押さえる効果にもなっている。
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図3スーパーウォール構造の概要 |
スーパーウォールは、壁厚640mm、幅約9mで、直行方向の鉄骨フレームからの荷重を伝達するため鉄骨柱を内蔵している。コンクリート強度はFc30~60Nであり,1Fの長期圧縮応力度は70kg/cm2程度である。妻面の一対のスーパーウォールは,低層部は鉄骨境界梁で,高層部は後述するブレースダンパーによって一体となり剛性を高めている。ブレースダンパーは微小変形から有効に減衰効果を発揮できる粘弾性体を用い、高層階の風揺れを押さえて居住性の向上を図った。水平力が作用した場合、高層階では曲げ変形が卓越するためブレース状に配置することでより効率よく減衰効果を得ることができる。
住宅階の南北住居スペースは中央の吹抜けを囲むように渡り廊下によって連結されている。短辺方向の地震力は各階のスラブを介してスーパーウォールへ伝達される。長辺方向の地震力は渡り廊下を介してコアフレームに伝達される。特に住宅階最下階の17階(メスガトラス下弦材レベル)は北側住居からコアフレームに伝達される水平力の約80%を負担するため、17階床は全面に水平ブレースを入れることで十分な剛性と耐力を有する計画とした。
さらに、大地震時にもこれらのメガストラクチャーを弾性内にとどめ、建物の高い安全性や機能維持ならびに財産保全を満足するために免震構造を採用している。
敷地が東西方向に傾斜しているため東側の正面エントランスは1階、西側の住宅用エントランスは地下1階となっている。また、地下2~3階は主に駐車場であることから免震層は地下1階床下とした。
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図4免震範囲図 |
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図5セミアクティブ免震システム概要 |
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図6建物頂部最大応答加速度(1年期待値) |
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図7ブレースダンパーの効果 |
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写真2空中キャンパス |
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図8ブレースダンパー |
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写真3ブレースダンパー |
免震システムは、天然ゴム系積層ゴム支承とオイルダンパーからなり、オイルダンパーの半数を可変減衰型とするセミアクティブ免震システムを採用した。本システムは建物の応答性状に応じて可変減衰ダンパーの減衰係数を適時切り替えるセミアクティブ制御によって免震層の変形を小さく抑え、かつ上部構造の加速度応答を低減できるシステムである。可変減衰ダンパーの減衰係数はCH(高)とCL(低)の2値をとり、コンピュータからの指令により切り替えられる。建物の応答は各所に配置したセンサーにて計測し制御コンピュータで管理している。コンピュータを使用するにあたり、常時モニタリングによる異常検知システムを取り入れて、信頼性の高いシステムを構築している。また、常時は可変減衰ダンパーの減衰係数はCHに設定されており、異常時には減衰係数が高い係数側に固定されて万一の場合にも免震層の変形が過大とならないように配慮している。
本建物はスーパーウォールによって高い剛性を有しているものの、高層階の用途が住宅であることから強風時の居住性能確保が課題となった。特に短辺方向は受風面積が大きく、また、計画地における卓越風の方向となっている。そこで、17階~26階の高層階では連絡ブリッジを利用して2枚のスーパーウォールをブレース型のダンパーにより一体とし、ダンパーには微小変形から減衰効果を発揮できる粘弾性体を採用することで減衰を付加し、風応答の低減を図った。なお、高層階では水平力が作用した場合曲げ変形が卓越するため、ブレース状に配置することで壁の鉛直変位差を利用して効率よく減衰効果を得ることができる(図2参照)。
風洞実験から得られた風外力を用いて時刻歴応答解析を行い居住性能の確認を行った。図6は1年期待値の最大応答加速度(短辺方向)をプロットした居住性能評価曲線を示している。プロットには粘弾性体の温度依存性によるばらつきを考慮したケースも含んでいる。いずれのケースも、H-10を下回っていることが確認された。また、参考として、図7に粘弾性体の有無による応答比較を示す。粘弾性体とすることによって30%程度の低減効果があることが確認された。
ブレースダンパーは吹抜けに面した連絡ブリッジという非常に透明性の高い空間に配置される(写真2参照)。そこで、通常粘弾性ダンパーとして用いられる積層タイプとは異なる、スレンダーさを追求した筒型ダンパーを開発した。図8に筒型粘弾性ダンパーの断面図を示す。基本原理は通常の積層タイプと同じであるが、□-200×200の内側鋼管の4面を利用してVEMをはさみこむ。外側プレートの座屈補強として仕上げを兼ねた外側の鋼管との間にモルタルを充填している。充填モルタルと内管との間にはクリアランスを設けダンパーの伸縮に支障が無いようにしている。これにより、最大減衰力2000kN、長さ約8mのダンパーを外径φ355mmに押さえることができた。
建築設計において,空間の可能性を創造・提案するのは構造設計者に課せられた重要な役割であり,同時に構造設計という仕事の醍醐味でもある。
新耐震設計以降の靭性型設計指向の流れの中で,ややもすると純ラーメン構造で安易に計画してしまいがちであるが,本プロジェクトでは免震構造の長所を最大限に生かし,耐震設計の有効な要素である連層耐震壁を上手く利用する事により,計画性・デザイン性そして耐震性を両立させたスレンダーで端正なフォルムを実現できた。
建物名称 | 代々木ゼミナール本部校 代ゼミタワー(OBELISK) |
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所在地 | 東京都渋谷区代々木2丁目25番1号 |
建築主 | 学校法人高宮学園 |
設計者 | 大成建設一級建築士事務所 |
施工者 | 大成建設 東京支店 |
規 模 | 建築面積 7175.10m2 延床面積 m2 階数 地上26階 地下3階 建物高さ 134m |
用 途 | 専修学校,共同住宅 |
構 造 | 免震構造+鉄骨鉄筋コンクリート造 |
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※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。