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『第20回JSCA賞』作品賞

 

東京大学弥生講堂アネックス

写真1建物外観
写真2建物内観
写真3 写真4

稲山 正弘(いなやま まさひろ)

東京大学弥生講堂アネックス(2008竣工)

1点直立の木質HPシェル8基が互いに支え合い荷重・外力に抵抗する構造形式写真1

内部空間は、8基の木質HPシェル同士の間に大きな三角形の開口部とトップライトを設けることにより、明るく開放的な空間を実現させた。写真2

弥生講堂アネックスのHPシェルは、木造住宅などに普通に用いられる一般流通材料を使って、施工上も大がかりなステージ足場などを用いずに、シェルの曲面をつくることができる構法システムを考案した。 直線が交差したグリッドにより構成されるHPシェルの幾何学的特徴を利用し、直線グリッドに沿って構造用合板によるウェブを格子状に組み、その上下面に構造用合板のフランジを2重に張ったストレストスキンパネルによっている。HPシェルユニットの枠となる4本の境界梁は、構造用LVLの角材を用いており、これを定規として現場で曲面状のストレストスキンパネルを組み立てた。写真3・4図1

図1

木質ストレストスキンパネルによるHPシェルの構成方法

写真5 写真6

HPシェルユニットの組み立ては、LVL角材の境界梁4本を、べた基礎の作業プラットフォーム上に対角2点を固定した状態で地組する。境界梁の内側には2‘×8’材の腕木をグリッド方向に取り付けておく。そこにラワン構造用合板から切り出した厚さ12mmの板状のウェブを、直交側ウェブと相互の切り込みを嵌合させてねじりながら取り付けていく。切り込み部分は奥に丸穴をあけることで、ねじっても応力集中を緩和して割り裂けるのを防ぐように工夫した。ウェブの相欠きは組んだとき切り込みで欠損している側が20mm出っ張るようにしておき、この合板の端を挟み込んでつなぐように20mm×30mmの長いヒノキ受材を通しで入れてビス止めし、ウェブ合板の切れてない側はグリッド毎に40mm×30mmの短いヒノキ受材で挟んでビス止め補強する。写真5・6

写真7 写真8

ウェブと境界梁の接合部は、木造住宅用のビス止め短冊金物(SUS製)で補強した。このようにウェブの接合部分を補強しIビーム状とすることで剛性が高まり、しっかりしたHPシェルのグリッド骨組が完成する。次に、骨組の上下面にグリッドに沿って不等辺四角形に切ったカラマツ構造用合板のフランジを受材に接着ビス止めする。合板は千鳥張りとし、一度張った上からさらに継ぎ目がずれるように直交方向に2重張りすることで、面内応力が連続的に伝達できるフランジ曲面となる。現場では下面のフランジ合板を張った段階で、上から各グリッド内に断熱材を吹き付け工法で充填した後、上面のフランジ合板を張った。こうしてHPシェルの1ユニットが完成する。この手順で同時に3基ずつ現場で組み立て、屋根と室内側の仕上げも施した後でHPシェルユニットを吊り上げ、H鋼の柱脚金物にシェル下端を挿入、ビス止めして直立させた。写真7・8

木質HPシェルの実験と解析

図2・3

木造シェルの応力変形解析は、RCシェルのように連続体とみなせない場合が多く、切り欠きやビス止めなどの接合部による剛性低下を考慮しなければならない。ここでは、ストレストスキンパネルを構成する構造用合板を面要素に置換し、それらをつなぐビス1本ずつをせん断バネに置換した単位梁要素モデルをまず作成した。この解析を行って、ウェブとフランジから成る単位I型断面の等価な軸剛性と曲げ剛性をあらかじめ求めた。この木造シェルの単位梁要素の剛性評価については、木質材料学研究室の当時の4年生が卒論テーマとして取り組み、実験結果と解析値がほぼ一致することを確認した。HPシェルの構造計算は、HPシェルのグリッドをこの単位梁要素による線材に置換し、面を等価なせん断剛性にブレース置換したフレームモデルに対して、鉛直荷重と水平力に対する安全性を確認している。

 
写真9 パネルの曲げ試験により
曲げ剛性と軸剛性の検証
  図4 
図5 等価な曲げ剛性と軸剛性を有する
単位I型断面を線材に置換した
HPシェルフレームをMIDASで計算

HPシェルの内装仕上げはレッドシダー(米杉)。奥に見える2階ラウンジは、軽いデザインとするために、木造フラットスラブによる3辺跳ね出し床とした。

ギャラリー内部空間の断面寸法は、天井高、スパンとも約7m。ギャラリーは現在、学会のシンポジウムやパネルディスカッション等に活用されている。

隣接する講義棟の1階講義室は、ヒノキ角材を交互にトラスが形成されるようずらして重ねビス接合した木造門型ラーメンによるルーバー状の壁・天井面としている。

配置計画は、弥生キャンパス本郷通り沿いの緑地帯の木々をなるべく伐採しないよう配慮している。HPシェルの屋根仕上げは銅板葺き。エントランスの片持ち庇は、120mm厚のLVL版を2枚並べたもの。

建物概要

建物名称 東京大学弥生講堂アネックス
所在地 東京都文京区弥生1-1-1
建築主 東京大学
設計者 河野泰治アトリエ
施工者 株式会社エンゼルハウス
規 模 建築面積 359.21m2
延床面積 479.48m2
階数   地上2階
建物高さ 9.230m
用 途 大学
構 造 木質構造

※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。

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