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写真1建物外観 |
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図1断面図 |
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図2平面図 |
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図3床梁伏図 |
山脇克彦(やまわきかつひこ)
本建物の構造計画は、明快な力の流れを感じることができる合理的な架構計画を、意匠・設備計画と整合を取りながら実現し、また架構計画に適した制振システムを組み込んだ設計とした。
最近の自由な建築形態が流行する風潮において、形態なりに架構を決定するのではなく明確な構造設計の意思を持ち、一方で意匠外観コンセプトを妨げない骨組を実現したことは、構造設計の守るべき姿勢と、構造デザインの大きな可能性を示していると考える。
本建物は2008年2月に竣工した専門学校であり、デザインコンセプトは、「モード、HAL、医専の3つの学校の学生のエネルギーが絡まりながら上昇するイメージ」であり、3つのタワーが螺旋状に絡まる形態から複数形であるスパイラルタワーズと名付けられている。
地震国である日本において、有機的な螺旋形態の建物を設計するに際しては、デザイナーの提案する形態に単に構造架構をあてはめるのではなく、合理的で力強く、かつ繊細な表現となるような構造計画を構造設計者として積極的に提案するよう心がけた。センターコアを強くて丈夫なトラスチューブ構造とし、細い断面の柱を螺旋状に絡ませる架構とすることで、建築計画に調和した構造デザインを実現した。(写真1 建物外観)
建物規模は地上36階、地下3階、塔屋2階(地上170m、地下21m)であり(図1 断面図)、楕円平面のセンターコアに、扇形平面を持つ3つのウィング部が放射状に接続し、このウィング部が階毎に回転・縮小することで螺旋型の外観を生み出している(図2 平面図)。
螺旋形態の外観を守り、明快な架構とするため、建物中心のコアまわりにインナートラスチューブと称する堅固な大黒柱を設けた。このインナートラスチューブはコア周りの12本のCFT柱と鋼管ブレースによりトラス状のチューブを構成し、必要な剛性および耐力を合理的に確保している(図3 床梁伏図、図4 構造架構概念図)。
外周の斜柱には重力下で常時に水平力が生じて建物全体に捩れようとするが、そのために柱が倒れるのを支える部材が必要となる。この水平力は平面トラスを構成する大梁を介してインナートラスチューブに流し、全体捩れに抵抗している。
地業は連続地中壁と場所打ちコンクリート拡底杭として砂礫層(杭先端GL-41m)にて支持しています。地下は鉄骨造ですが、地下3階はSRC造とし、インナートラスチューブ最下層と建物外周の連続地中壁とを剛強な耐力壁で接続することで建物全体の転倒を確実に防いでいる。
外周斜柱は鉛直荷重を支える最小限の断面とした。CFT充填孔を柱頭部に配置し、耐火塗料を用いる等、内外観に配慮した。
大梁せいは450mmを基本とし、梁下を設備空間として明確に分離した。一方、大梁の種類は超短スパンや制振カラム周りなどの特異な部位を除いて6種類(外周、内周、内外接続、コアなど)で構成した。大黒柱であるインナートラスチューブによって大梁に地震時に生ずる曲げモーメントが小さく、軸力材としての役割が主になることから、明快な部材断面計画となり、使用鉄骨量を最小限に抑えることができた(延べ面積あたり鉄骨量約210kg)。
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図4構造架構概念図 |
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図5想定外の大きさの地震に対する検討 |
部材の重要度に応じた余裕を持たせ、予想を超える大地震が発生しても粘り強く地震に抵抗できるように設計した。この建物の部位を樹木に例えれば、「基礎=根、インナートラスチューブ=幹、外周柱=枝、境界梁・大梁=小枝」となり、最も重要な部位である「根(基礎)」および「幹(インナートラスチューブ)」には大きな耐力の余裕を持たせ、「小枝(境界梁・大梁)」が先行して塑性化するように断面を設計している。
複雑な架構形態のために地震シミュレーション結果はブラックボックス化しがちだが、明快な構造システムにより、力の流れを感覚的に理解できる。多くの「小枝」が塑性化しても「幹」が丈夫であれば全体剛性に与える影響は小さく、地震動の大きさの変動による架構応力性状の変化を容易に理解できる。
想定以上の地震力にも大きな耐震性能を持たせるため、再現期間500年の地震動(Level2)の1.4倍の大きさの地震動(L2×1.4)に対してもほぼ弾性を保ち、1.8倍の大きさの地震動(L2×1.8)に対してもインナーチューブの剛性および耐力に余裕を持たせた設計とした。(図5 想定外の地震力に対する検討)。
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図6制振カラムの原理 |
塔状比が大きく地震時に外柱の軸伸縮が大きくなることを利用し、柱の位置に粘性ダンパーを設置する制振カラムを26箇所に設けて大きな減衰効果を得ることができる。制振カラムの上部階にはブレースを設け、インナートラスチューブからの片持トラス構造とすることで常時荷重を支持している。大地震時に最大で1階41mm、それ以外の階で18mmの制振カラムの伸縮が動的解析から想定されるため、制振カラム付近の外装には、水平方向に加えて鉛直方向の層間変形にも追随できるディテールとし、また実大試験体により変形追随性能を確認した(図6 制振カラムの原理、写真2 制振カラム)。
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図7屋上制震の原理 | 図8屋上制震概念図 |
建物頂部変形が大きくなることを利用し、上部構造の1%の重量を屋上に転がり支承上部に載せ、鉛ダンパーの変形によって地震エネルギーを吸収する屋上制震を設けた。2段重ねの積層ゴムで付加質量の周期を建物周期と同調させている。また船舶の衝突緩衝材である防舷材をフェイルセーフとして付加している。制振カラムと屋上制震により、地震時の変形を最大で22%低減できることを動的解析により確認している(図7 屋上制震の原理、図8 屋上制震概念図、図9 制振システムによる地震時変形の低減)。
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写真2制振カラム | 図9制振システムによる地震時変形の低減 |
建物名称 | モード学園スパイラルタワーズ |
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所在地 | 愛知県名古屋市中村区名駅4丁目27番1号 |
建築主 | 学校法人 モード学園 |
設計者 | 株式会社日建設計 |
施工者 | 株式会社大林組 名古屋支店 |
規 模 | 敷地面積 3,540.06m2 建築面積 2,365.75m2 延床面積 48,988.96m2 階数 地下3階 地上36階 塔屋2階 建物高さ 170,000mm |
用 途 | 専門学校、店舗、駐車場 |
構 造 | 鉄骨造(柱CRT)、一部鉄骨鉄筋コンクリート造 |
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※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。