山我 信秀(やまが のぶひで)
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写真2 |
建物は低層部のスタジオ、中層部の放送局、高層棟の事務エリアの3つに分かれ、それぞれの間に大階段、風孔が設けられている。この適度な「孔」をバランスよく配置することにより印象的で記憶に残る形態を創り上げている。
地上レベルには街区の賑わいの中心となる「リバーデッキ」、中層部には「スカイテラス」を設けて川に開いた空間を楽しめ、内部と外部が一体的に感じられる施設構成となっている。
本建物は、「デジタル時代のソフト製作工場」をコンセプトに、4つのテレビスタジオと5つのラジオスタジオおよび約300席の公開収録スタジオであるABCホールを、機能に応じて迅速に効率よく使うために、積層させている。また、「人」、「物」のつながりを考慮した機能的な放送局とするため、L字型の平面形状としている。
建物の形状は、平面・立面形態が複雑となっており不整形である。また、建物内部に巨大なスタジオを内包しており、それが立体的に偏在している。このような特徴を持つ超高層建物を実現するための構造計画を下記とした。
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写真3 |
上部構造は、複数のスタジオが立体的に不規則に配置されているため、柱の配置に大きな制約を受けた。 そこで、メガトラス架構を採用することでスタジオ等の吹き抜け空間を有する架構を計画した。
スタジオは23mスパンの架構が必要となったが、躯体断面の増大、振動による居住性低下を懸念し、スパン中央に柱を設け、その柱をメガトラスで支持することにより架構を形成した。メガトラスは、ブレース材が存在しても影響がない設備フロアに設け、意匠計画との整合を図っている。このメガトラスを全フレームに配置することは、居室内の柱の増加による機能性の低下、コスト増の懸念があったため、メガトラスを集約することを考えた。その結果、メガトラス架構に荷重を集め、合理的に架構を形成する手段として大梁を格子状に配置し、メガトラス架構に荷重を伝達できるような床組み計画とした。メガトラスと格子状の床組を組合せることで、メガトラス架構を集約でき、機能性の高い各諸室空間とスタジオの大空間を作り出した。また、この格子梁は歩行振動の抑制にも効果があり、居住性の向上も得ることができた。
またメガトラス架構は、この建物の大黒柱的な構造体であるため、冗長性を考慮して断面に十分な余裕をもたせている。
外周面のスタジオなど閉じた空間の壁を利用して、ブレースを適切に配置した。ブレースの設置により建物周期を1秒程度とすることが可能となり、高剛性で免震効果の大きい構造を実現した。また、ブレースの配置により、メガトラス架構への地震力の過度な集中を防いでいる。ブレースの負担率は70~90%であり、フレーム部の躯体量を削減している。
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写真4 | 写真5 |
本建物の施主は兵庫県南部地震を経験しているため、大地震時における放送局機能維持を重視し、大規模放送局として初めて免震構造を採用した。免震構造を採用することにより、不整形な建物の捩れ振動を抑制することができ、地震力から開放された独創的なデザインを可能にした。
免震層は、柱頭免震と基礎免震を併用している。そのため免震層にはレベル差が生じている。柱頭免震部の独立柱の剛性の影響を極力小さくするため、独立柱にはすべり系の免震装置を配置し過大な力を独立柱に作用させないよう配慮した。また、鉛プラグ入り積層ゴム、ダンパーは壁付き柱に限定して配置することで支持部材の剛性の影響を受けないようにした。これにより、免震層にレベル差のある柱頭・基礎併用の免震構造を実現した。
柱頭免震を採用することにより、掘削量を軽減しコストダウン及び工期短縮を図っているが、敷地高低差を生かす地下断面形状とすることで更なる効果を生んでいる。
メガトラスは設計で想定していた応力状態を確保するため、施工時には仮設柱を設け施工段階においても完成時の応力状態と相違がないようにした。また、メガトラス架構及び格子梁の完成後の変位をできる限り0に近づけるためむくりを設け過大な変形が残存しないように対処した。免震装置においては、免震装置の鉛直剛性の違いや、上部構造体の建て方順序により免震装置の荷重分布が設計通りとならないことが考えられた。そのため、上部構造体の剛性が高まるまで免震装置をサポート材にて支持し、設計通りの荷重分布となるような配慮を施した。
建物名称 | 朝日放送新本社屋 | |
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所在地 | 大阪府大阪市福島区福島1-1-30 | |
建築主 | 朝日放送株式会社 | |
設計監理 | 隈研吾建築都市設計事務所 NTTファシリティーズ |
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施 工 | 竹中工務店 | |
規 模 | 建築面積 延床面積 階 数 建物高さ |
6959.85m2 43401.27m2 地上16階、地下1階、塔屋2階 77.507m |
主要用途 | 放送局・駐車場・店舗 | |
構 造 | 鉄骨造(柱CFT)、免震構造 |
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