第3章 各地での取組み
3-1 宮城県北部連続地震(2003年)の復興と来るべき地震にそなえて
2003年7月26日(土)に発生した宮城県北部連続地震において多数の木造住宅が被害を受け,その中には伝統構法の古民家が多く含まれていた。被災古民家の多くが解体され,メーカー住宅に建て替えられる中,地元建築家を中心としたボランティアグループが立ちあがり,築約130年の被災古民家の耐震診断を行い,改修工事を経て復興を遂げた。今回はその実施事例を紹介する。
佐藤廣喜
3-2 伝統構法の木造建築を如何に守るか
伝統構法の木造建築の耐震診断、耐震補強工事の促進を図るためには何が必要か? 既に、「伝統構法を生かす木造耐震設計マニュアル」とエクセルによる「限界耐力計算」のソフトが作成されている。この二つの「マニュアル」と「ソフト」を使って、「伝統構法建築相談士」育成セミナーをJSCAの支部単位で開催し、伝統構法の専門士を育成し、全国ネットで登録し、需要供給に応える。また、診断補強事例を公開し、耐震診断、耐震補強工事の促進を図る。
滝 英規
3-3 東海地震に備えて
住宅・建築物の地震防災対策において、一人一人の意識を大切にして進めることが重要である。その上で、市は住宅等の民間施設も都市を構築する重要な都市施設の一つとして捉えて、まちづくりの観点から耐震診断・改修を進める必要がある。災害に強いまちづくりを短期に実現するのは容易ではない。地域の実情を反映した中長期的な計画を立てて、着実に住宅・建築物の地震防災対策を実施していくことが、災害に強いまちづくりを進める第一歩である。
木河 聡
3-4 京町屋の保全・再生の促進
-京町屋を地震から守るために-
京都市は、2000年に「京町家再生プラン」を策定して以降、(財)京都市景観・まちづくりセンターを中心に京町家の保全・再生に積極的に取り組んできたが、構造規定を中心とする建築基準法の既存不適格問題については長年の懸案とされてきた。しかし、2003年から取り組んでいる京町家の耐震診断・補強方法の検討成果や2004年法改正による既存不適格規制に関する合理化により、地震に強い京町家の保全・再生の道筋が見えてきている。
寺田敏紀
3-5 関西の民家を改修して
-木造住宅の耐震改修の難しさはどこにあるのか-
築30年以上の木造住宅の構造は施主の個性と同様に多様で、限られた予算の中での耐震補強は一筋縄ではいかない。仕様規定を満足するかどうかをチェックするだけのマニュアルに沿った診断では、多様な木造住宅の耐震性能を適切に評価することはできないし、施主の心を動かすこともできない。構造設計者がきちんと個別に対応し、性能設計を通して耐震補強の必要を説くことが、遠回りに見えて実は一番着実な耐震改修を促進する道である。
桝田洋子
3-6 南海地震に備えて改修を進める四国の木造建築
近い将来、南海・東南海地震の発生が心配されている。そのような状況の中で、四国においてはどのような取り組みが行われているか?そして、なぜ対応が遅れているか。筆者は、今までにいくつかの木造建築物(古民家・神社)の耐震診断を行い、一般ユーザーと協議を行う機会があった。その協議の中で発生した状況と問題点を通して、それらについての検証、報告を行う。
大西秀行
3-7 町並み保存地区の木造構法について保存修理現場からの考察
島根県のほぼ中央部に位置する大田市大森町の石見銀山は、16世紀における鉱山の一つとして開発された。当時、銅山の開発を手がけていた山師らを恃み、博多の商人上野寿禎らが新技術を応用して採掘し、瞬く間に世界に知られる銀鉱山となった。とりわけ、灰吹き法という新しい精錬技術や坑道堀によって生産量が増加し、16世紀末から17世紀初めにかけて世界の政治経済に大きな影響を与えた。日本の鉱山開発の先駆けとなったことから日本鉱業技術発祥の地と呼ばれた。現在、石見銀山は、平成19年の世界遺産本登録へ向けて準備が整いつつあり、今再び輝こうとしている。
渡部孝幸