柱と梁とブレースの骨組み
新宿駅東側の写真4中央のこの古い架構は、一部に円弧を使用して、隣接する鉄筋コンクリートのアーチ(arch)と呼応するかのように、デザインされている、とても魅力的な架構です。
しかし、“なぜ円弧にしたのか”と言う疑問が湧いてきました。
とりあえず、“力”と言う視線で考えて見ることにして、簡単なモデルで直線と円弧の違いを覗いてみましょう。
まずは、円弧タイプと直線タイプの形をつくって〔赤い部材が円弧を折れ線でモデル化〕、写真の材料に近い部材を入れて、地震の横揺れを想定して、同じ力を水平に加えてみることにしましょう。(下端で両方を結んでいる青い部材は、一度に解くための仮の部材で他には影響有りません)
下図の画面を押してみて下さい。
動きましたか?〔動かないときは Flash Player をインストール〕これは、力を加えると変形して、赤い部分ほど大きな、部材を曲げようとする力(構造力学では曲げモーメントと呼んでいます)が、発生していることになります。この部材に発生した力で外からの力に抵抗しています。垂直の部材のX上部付け根が大きな力を発揮しています。
円弧タイプの方が、明らかに、大きな力〔モーメント〕を発生しています。
力をかけた方向の水平の移動量(水平変形)も少し大きいようです。
部材には、太いものと細いものとが有るので、今度は
単位断面積(1mm2)当りでどのような力が働いているのか(構造力学では応力度と言います)を見てみましょう。
ここでも下図の画面を押してみて下さい。
円弧の中で赤くなりますね。危険に近づいています。先程のモーメントでは鉛直の部材の中程が赤くなりましたが、この応力度の図では青いままです。働く力は大きいのですが、垂直の柱の断面も大きいので、1mm
2当たりの力〔応力度〕で考えると円弧の部材より小さいので青いままです。
同じ材料なら、応力度が大きいほど壊れる力に近づいているのですが。材料によって耐えられる限度(強度)が有ります、これを超えると壊れてしまいます。
さて、少し専門的になりますが、部材に発生するいろいろな力(構造力学では考えるのに便利なように、曲げモーメント、せん断力、軸力の三つの力に分けて考えます。)をざっと見ておきましょう。
構造力学では、見やすいように力の大きさを図で表します〔応力図〕。
ここでは、部材の横〔上または下〕に、色の付いた三角形や四角形の図形が付いていますが、これらの外郭線が、部材から離れているほど力が大きいことを表しています。
では、早速、見てみましょう
曲げモーメント (材を曲げようとする力) |
static Load case: 'Px' Mz' (kN-m)
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せん断力 (材をずらそうとする力、部材軸方向に直角方向に働く力) |
static Load case: 'Px' Vy' (kN)
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軸力 (材を押したり、引っ張たりする力、部材の軸方向に働く力) |
static Load case: 'Px' Px' (kN)
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どこが、どのくらい大きな力を受けているかわかりました?
では、始めの疑問を考えてみましょう。まずは、円弧と直線の違いをまとめると。
1.力をかけた方向の水平に動く量(水平変形)は円弧の方が少し大きくなりそうです。
2.曲げモーメント図を比較してみると、曲げようとする力は円弧を採用した骨組みのほうが直線材だけの骨組みより全体的に大きく、柱だけでなく円弧の部材にも大きい力が働いています。
3.せん断力図では、円弧を採用した骨組みの方が少し大きいようです、特に円弧に大きい力が働いていますが、一方、直線材だけの骨組みの方はほとんどありません。
4.軸力図を比べると、両方の骨組みともほぼ同じような分布をしています。
以上が円弧と直線の違いをおおよそ眺めたものです。
円弧の方は、変形が少し大きいのですが、やんわりと力を受けて、いろんな所でそれぞれ頑張っているように見えます。直線の方は、緩み無く、しっかりと受け止めているようですが、どこが頑張っているのでしょう、これだけでは判別が難しいようです。
数値は出てきませんが、皆さんのカンジニアリングで(経験と感性で)見るとどのように見えるのでしょうか。
(※カンジニアリングとは経験と感性を交えた工学という意味の私の造語)
最初の疑問の、何故には答えられませんでした。
技術者がどうしてこのような動きをする架構をつくったのか?力に抵抗する事だけではなくこのカーブが美しいと感じていたからでしょか?ひょっとしたら、形に違和感があるので、たすき状の部材(ブレース)は、後の時代に”増強を考えて付け足したもの”とも考えられます。神田〜お茶の水〜秋葉原辺りでは、ブレースの無いタイプも数多く見られます。皆さんも見て、考えてみてください。