ホーム 建築構造を理解するために 特集夏休み てく・テク 山手線

夏休み てく・テク 山手線

=近代のはじまりを感じる小旅行=

 

ホーム上屋(構造体)の作り方

 皆様が普段利用するホームの上屋は、どんな形をしていますか?下図の様な形をしていませんか。

 さて、最初にホームを設計した人はどんな形をイメージして、これらの形を考えていったのでしょうか。 そのあたりを想像しながら考えてみましょう。

ホーム1
ホーム2
 ホームは電車に乗り降りする場所です。ですから乗り降りするドアの前に柱があると邪魔ですね。 よって線路がホームの両脇にあるか、片側にあるかで、ホーム上屋は左図の様な形が考えらます。 ホームを設計した人も多分そんなこと考えながら作ったと思います。
 さて、左図のホーム1の上屋は何かに似ていませんか。 立派な枝を大きく張り出して地面から生えている大木(広葉樹)に似ていると思いませんか。
 影も形も無い状態から、物を作る時必ず何かを参考にします。 昔の人も同じで、“雨が降れば雨やどり”、“暑い日には日陰になる場所”から想像し多分大きな木を連想したと思います。
広葉樹のイメージ

 木は地球上に存在する一番長生きな生物です。 強風に耐え、豪雨、豪雪にも耐え幾多の地震にも耐えて出来上がった、非常に無駄の無い美しいプロポーションをしています。 その美しいプロポーションを真似るのは当然だったかもしれません。

 次にもう少し細かな点に注目しながら、何故これらの形になっているのか考えて行きましょう。

 さて、上図の広葉樹は、地上の枝振りより大きい根を地面に這い巡らせているのは皆さんも知っていますよね。 この様に地面(基礎)にしっかり固定された形を、我々建築用語では“固定支承”と云います。 また、それとは反対に“ピン支承”と呼ばれるものもあります。 今回の駅紹介の中にも何度か出てきたでしょう。この2つの支承を簡単に説明してみましょう。 まず割箸を下図の様に持ってみてください。

固定支承のイメージ ピン支承のイメージ
 手の平でしっかり握った形、割り箸の上部を、他の指で動かしても動きません。 これらが固定支承です。では次に、親指・人指し指で割り箸を持ってみましょう。 割り箸の上部が簡単に左右に動きますね。これがピン支承です。

 では、これらの支承はどの様に建築物に使われているのでしょうか。 それを説明する前に柱と梁の接合方法にも少し触れておきましょう。 前述の支承は、柱と基礎ですが、柱と梁においても同様に“固定”、“ピン”と呼ばれる接合方法があります。
 これも割り箸にて説明しましょう。

ピン接合のイメージ 剛接合のイメージ
 まず割り箸を二本用意し、それぞれを図の様にピン(画鋲のような物)で留めてみてください。 接合部は取り付いていますが、容易に回転してしまいますね。これがピン接合です。 では固定接合はピン接合の状態で、紐で縛り付けてみてください。 これで、二本の割り箸の形は力を加えても回転しません。これが固定接合です。
 では紐がないと固定には出来ないかというとそうではありません。
 皆さんマッチ棒等で三角形と四角形を作ってみてください。 四角形は、同じ長さのマッチ棒において、正四角形、平行四辺形、ひし形といろいろな形になります。 では三角形はというと、正三角形以外は出来ず、その角度は60度のままですね。
接合部のイメージ 柱脚固定支承で安定した架構 柱脚ピン支承で転倒する架構
  建築ではこの三角形が非常に大事になってきます。 左図の様に、ピン接合部を三角形にしてみます。 これで、固定接合と同様に回転しなくなりました。
 やっと、ホーム上屋に出て来るような形になってきましたね。
 左図に、もう一本割り箸を加え、又三角形を作っていくとトラスという物になります。 もし、これを机の上に建ててみようとすると、倒れてしまいますね、そこで、しっかり倒れないために固定支承を使って見ましょう。 これで建物は安定しました。
 さて、固定支承がどの様に使われているか説明しましたが、もう一つのピン支承はどの様に使われているのでしょうか。 先程の割箸を固定支承を使わずに、ピン支承にすると割箸は回転し倒れてしまいます。 そこで、もう一つ同じものを用意して、梁と梁を繋げてみましょう。これで、ピン支承でも倒れません。 この形を建築用語でラーメン架構と呼びます。 そうです、皆さんがいつも利用しているホーム上屋のほとんどがこのラーメン架構の連続で出来ています。

ラーメン架構のイメージ ブレース架構のイメージ
 最後にブレース架構についても少し触れておきます。 前述のマッチ棒で、“四角形はいろいろな形に変化する”というのは、言い換えれば“四角形は不安定”であるということです。 その四角形にもう一本マッチ棒(正確には長さの違うマッチ棒)を斜めにいれて、三角形を2つ造ってみてください。 これで、四角形は正四角形以外出来なくなりました。 この斜め材をブレース(筋交い)と呼び、それを用いた架構をブレース架構といいます。 上図にそのイメージ図を描いてあります。全て接合部がピンでも安定しています。
 これらのイメージの形を実際の写真でも紹介しておきます。 なんとなく、建築の形を理解してから、ホーム上屋を見ても面白いと思います。 また、全ての建物に共通した考え方ですので、多少頭の隅に割り箸・マッチ棒等を思い浮かべながら建物を見てみてください。 今までと違った見方が出来ると思います。
復元された日本最古のホーム上屋。
新橋汐留駅
古レールで作られたトラス

※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。

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