今年還暦の60歳を迎える私は、建設会社36年勤めの現役サラリ-マンです。昔の60とは違うと自負していますがそれなりに年金の事も気になる年でもあります。
さて、建築を志す若い方、建築をもう少し知りたい方たちに何かのお役に立てればとこのコ-ナ-に飛び入り参加しました。実は来春建築科を卒業し、社会人となる息子へのメッセージでもあります。
● 雪を味方にしよう

私の住む札幌は、約3ヶ月間は雪との生活です。朝の除雪は出勤前の一仕事、しかしマンション住まいの人は管理会社がやってくれるそうで、羨ましい限りです。
今年も雪祭りが開催されました。例年“大雪像”は自衛隊さんが造るのですが、今年はイラク派遣と重なったためか、集客こそありましたが例年より少々迫力に欠けた“大雪像”だったように感じました。(写真の様に雪像は“立体形”ですので暖気で壊れないよう力学の知識も導入されているのでしょう。)

いま、克雪技術から利雪技術へと、研究開発の方向が変わりつつあります。雪1tから石油換算で約10リットルの冷熱エネルギ-が生まれるところまできたそうですので、そうなるともう貴重な資源です。今までの厄介者の雪は今や天からの贈り物で「白いダイヤ」とまで言われています。平成14年から雪氷が新エネルギ-の仲間に加えられ、これを活用すると補助金支給の対象になるまでになりました。人間や畜産のための冷房はもとより、花、野菜、米、酒などに対する冷温利用事業が道内各地で進められています。昨年完成した公園施設・“ガラスのピラミッド”は、総ガラス張りのために夏季には室温がかなり上昇するはずですが、冬に貯蔵しておいた雪を利用して冷房しています。
私の勤務先でも、雪国の企業として、雪の貯蔵技術の研究や、雪冷房による空気性状技術の研究などに取り組んでおります。
●構造計算は手計算から始めよう
子供の頃、父が建築会社をやっていたので、工作好きの私は家の周りの豊富な資材で犬小屋や乗り物などを作ってよく遊んだものです。時には父について現場に行き、足場を登ったり大工さんのまねごとをしたり、コンクリートの匂いや木の香りが子供心に焼き付いています。
そんな影響からか、気がついたら父と同じ道を歩いていました。建設会社に入社し、設計部に配属され、意匠系を希望したのですが、自分としては不得意と思っていた「構造をやれ」と言われてしまいました。苦労の日々ではありましたが、幸い先輩の指導で“やれば出来る”を実感させられ、そのまま構造の実施設計を任されるようになりました。怖さしらずも幸いしたのだと思いますが、なんとかここまでやってこられました。
はじめたころの構造計算は計算尺とそろばんでしたが、2~3年してコンピュ-タ-が出現してからは仕事のやり方も大分変化し、いろいろのケースを簡単に比較検討できるので知識・経験の蓄積がスピードアップしました。
現在は当たり前にコンピュ-タが仕事の主役を占めていますが、今までの経験を基に言わせて貰えば、「絶対に単なるオペレ-タ-にはならないでほしい、いやなってはいけない」と思っています。
構造計算で大切なことは「数字の重みをまず知る」ことではないでしょうか。わたくしの場合は手計算で養われた「数字の重み」が現在の仕事におおいに役立っています。例えば短時間での概略設計や数量・コスト算出などは、メモ用紙と電卓で十分です。細かい計算ももちろん必要ではありますが、オーダー間違えをしても気が付かないようでは困ります。「先ず、大づかみをする」それが自然に出来るようになれば「数字の重み」がわかります。そうすれば構造計算がよくわかって楽しくなり、ひいては「構造設計をする事の面白さ」を味わうことが出来るでしょう。
これから構造を志す若い人にもぜひ「数字の重み」をわかってほしい。そのための近道は二つあります。一つは略算・手計算をする事、そしてもう一つは、いろいろのケースをコンピューターで解き比べる事です。いずれも、ただ計算をするのではなく、いろいろ考え、考え抜いて結論を出す作業です。
●北国の住宅は地震に強い
北海道は、寒冷・多雪地域です。当然本州とは異なる住宅様式が求められます。地震も道東を中心に太平洋側は震度5~6クラスの大規模地震が頻発しています。
阪神淡路大震災の建物被害数は数十万棟と言われていますが、釧路沖、北海道東方沖地震はいずれも震度6という規模にもかかわらず、住家の全壊はわずか50~60棟程度でした。これには地滑り、地盤の液状化被害も含まれています。「ではどうして北海道では住家の被害が少なかったのでしょうか?」との疑問にちょっと考えてみました。
次の5つの要因があるのではないでしょうか。
そのひとつは雪が多いため滑雪しやすい鉄板屋根であり、地震に有利な軽い屋根であること。
2番目としては寒冷地のため、窓などの開口部が小さく数も少なく、本州のように広々とした縁側などはまずお目にかかれません。開口が少ない分、壁量が多くなり耐震性に優れることになります。
3番目として冬季は気温が氷点下となり地盤が凍る、いわゆる「凍上現象」が起こります。建物の基礎は凍上を防ぐため凍上線以下まで基礎を下げなければなりません。通常60㎝以上となるため土台までのコンクリート布基礎高は1mにもなります。この基礎が建物をしっかり支えて地震に強いものとしているのです。

4番目は重い雪を支える構造とする為、いやでも骨太の柱や梁となりますがこれが耐震的に強い架構となっているのです。
そして、五番目は地震がおきたとき、幸いにも重い雪を目一杯しょっていない、身軽な時であった事
以上の5つが北国の住家を地震に強くしているのであるというのが「吉岡説」であります。ご賛同いただけますか。
●構造設計にも喜びがある
若い頃、建築家と小樽運河のほとりにレストランを設計したことがあります。“構造美を表現したい”という建築家の主張に感銘し、彼のアトリエで模型を何度も造り変えながら時の経つのも忘れて議論を積み重ねた作品でした。不整形な形状でしたので、今のように何でも解けるコンピューターも無かったので三次元の立体解析には苦労しましたし、解析結果を報告するのに必死で力学の原理から説明するなど苦労しましたが、 どうにか外装ステンレスとガラスというユニークなレストランが誕生しました。
建築確認は図面では表現しづらいので模型写真を添付するなどいろいろ工夫をしましたが、後に全国誌「商店建築」に掲載され、苦労が報いられたことを記憶しています。
もう一つ思い出の作品はホテルのアトリウムの設計です。幅40m、高さ45m、曲面のガラススクリ-ンを鋼管パイプの立体格子梁で組み上げました。スマ-トさと全体のバランスに気を使いパイプ径と格子サイズを決めるのに苦労しましたが、竣工式でお施主さんや周りの方々からお褒めの言葉をいただきホッとしました。15年程経ちましたが現在もホテルのシンボルとしてお客様のくつろぎの広場となっています。

厳しい社会情勢ですが、それに流されることなく、このような設計冥利に尽きる仕事を続けたいと思っていますし、若い構造技術者・構造士の方々にもぜひ「やったぞ」と自分が納得できる仕事をしてもらいたいと思います。
吉岡 尊志(よしおか たかし)JSCA北海道支部長