千年家を造ろう

 
 「日本の建築は欧米の建築に比べて短命である」と言われています。欧米が石を材料としているのに対し、日本は木を材料としているからということが原因とも言われますが、木造の寺院建築で平安時代・鎌倉時代に建てられた物が少なくない事から、木造がゆえに短命と言う事はありません。しかし、住宅で古い時代のものはそう多くは無いようです。

地図1
  わが国の最古の現存する住戸は、箱木(神戸市北区)にある「千年家」かもしれません。呑吐ダム建設に伴い現在は移築されていますが、建てられた時代は14世紀にさかのぼるといわれています。(地図1参照)
 兵庫県には、同じく「千年家」として安富町にも室町時代の民家があるようです。
 これら「千年家」というのは、その古さを千年にたとえられたもので(百年家とは言わないようです。)、正確に千年以上生き長らえている建物と言うわけではありませんが、すでに元禄時代からそう呼ばれていたということです。
 また、九州最古とされる福岡県新宮町の住宅は、建物自体は江戸時代中期に建てられたものですが、1000年以上もの間、最澄ゆかりの「火」を守り続けていると言い伝えられています。箱木の千年家も「いろり」を中心にして柱を建てていることから、聖なる「火」を守るという目的があったようで、「火を守る」といったような「目的」を持つ事が、民家の長寿命化に大きく貢献しているのかもしれません。

 歴史的建造物とよばれる現存する長寿命建物のほとんどは、宗教建築です。神殿・教会・寺院など人間の精神生活に大きな影響力を持っている宗教の象徴的建築も、火と同じように、建物の存在そのものが目的だからでしょうか、長寿命を保っています。建物が長寿命であるためには、存在目的が長寿命である必要があるのかもしれません。

 建物は、実際に使われないと意味が無いので、遺跡として保存されている状態のものは、必ずしも長寿命“建築”とはいえないかも知れませんが、構造種別的に見た代表的なものとして、クフ王のピラミッド(BC2600年、石自然造)、パンテオン神殿(2世紀、無筋コンクリート造)、ハギア・ソフィア教会(6世紀、レンガ造)、法隆寺金堂(7世紀、木造)、ノートルダム大聖堂(1250年、石構造積)、エッフェル塔(1889年、鉄骨造)、サン・ジャン教会(1897年、鉄筋コンクリート造)などがあります。
 長寿命建築となるためには、自然に逆らわない材料で、太く・厚く・大きくが耐久性をもたらしているようです。木造は火に弱い事、腐る事、虫がつくことなどから本来は短寿命の場合が多いのですが、部分的に修復が可能な事から、長寿命建築に結構名を連ねています。(法隆寺金堂は内部の焼失により、現在は修復されています。)

 面白い長寿命建築として、伊勢神宮の式年造営があります。(建物の敷地を2つ用意し、となりの敷地にまったく同じ形の建物を建ててから前のを取り壊す事を20年毎に繰り返し続ける方法。この方式を採用する事で、技術の伝承もおこなわれています。)一つの建物は20年間しか存在しませんが、全体から見ればまったく変わらない建物が建替え続けられる事から、これも立派な長寿命建築であり、木の文化で考え出された貴重な千年家システムといえましょう。

 建物の寿命を短くする要因として、地盤条件・自然災害・火災・材料の耐久性・火災などがあげられます。しかし、それ以外にも我々が謙虚に学ばなければならない長寿命化を阻む要因として、次のようなこともあげられます。

先端化・・・ 少しでも高く、少しでも大きくと、今までの建物をしのぐものを作ろうと努力しますが、技術がそれに追いついていかない場合が多いようです。
(当初のハギア・ソフィアはドームが大きすぎて崩壊してしまいました。出雲大社は高さ約48mのものを造ったと文献にあり、地中から巨大木を 三本寄せ集めた柱が出土しましたが、あまりに高すぎたために倒壊して しまったようで、今に残っていません。)
合理化・・・ 同じ形式の建物を造り続ける場合には、どうしても後の時代のものの方がひ弱くなる傾向にあります。これは、先例をいかに合理化するかという方向に技術が進むからでしょう。
(ピラミッドは、古いものほど良く残っており、後世のものは崩れていますし、日本の寺院建築・神社建築も、新しいものほど多く残っているはずが、古いものが多く目に付くことも、これに当てはまりましょう。)
 
箱木の千年家
箱木の千年家
  これらは、時代背景も勿論あるのですが、技術の過信と慢心により生じるものといえます。

 我々が取り組む建物では、このようなことがあってはなりません。新たに造る建物は、勿論長寿命を目指して本人取り組まなければなりませんし、今まで残ったものを千年持つように維持していかなければなりません。
 21世紀に住む我々ひとりひとりが、日本の、世界の、地球の守るべきもの、伝えるべきものは何かを考え、みんなで力を合わせて、少しでも多くのものを「千年家」に育てていく義務があるのではないでしょうか?

浅野 美次(あさの みつぐ) JSCA広報委員会委員長


※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。

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