雪との共存
-克雪、親雪、利雪への2、3の課題-

 

北海道では太平洋岸の一部を除き、年間の約1/3が雪に囲まれており、雪を無視した生活はあり得ない。雪への接し方を表す言葉として「克雪、親雪」がよく使われるが、近年これらに「利雪」が加わった。

構造技術者にとっての克雪

雪は水資源としての恵みをもたらしてはいるが、多くの人々にとって行動が制限される厄介者であり、冬の暮らしには雪との戦いが続く。

私たちの生活の場である建物(家)は雪に対して安全でなければなく、古くは雪の積もらない屋根形状とすることが基本であったが、今では建物が大型化していることもあり、落下した雪の処理の問題などから雪を滞積させる屋根が多くなった。建築基準法では積雪荷重は短期応力で扱うことを基本としているが、多雪地域(積雪1m以上または積雪期間が30日以上の地域)においては、算出された積雪荷重の70%でもって長期応力設計するとしている。

降った直後の雪は軽いが、積もった雪は時間と共に圧縮し、積雪1~2mの場合の平均重量は、比重で0.3~0.35となり、北海道内の特定行政庁は条例で積雪1m以上の単位荷重を30N/cm/㎡(比重で0.3)以上と規定している。一般には下限の単位重量を使用して設計しているため、床の積載荷重が想定値をそのまま使用し長期応力としての安全率を確保していることに対し、鉄骨造などの軽い屋根では、長期応力設計しているにもかかわらず、想定した量の雪が屋根に載ったときには、真の安全率が1.0を割ることもあり健全な施工がなされていても破損・崩落の危険性がある。

従って、吹き溜まりや軒先の雪庇・巻き垂れなどに設計上の配慮がない建物では、冬期間建物を安全に維持するには想定外の積雪に対する管理が重要となる。大雪の年は建物管理者にとって大変な心労であり、設計者にとっても安全状態が確認できるまでは落ち着けない。工事費も設計条件の中のひとつの制約であり、やむを得ずゆとりのない積雪設計を余儀なくされることもあるだろう。構造技術者にとっての克雪とは、床の積載荷重と同じ安全率を持つ積雪設計ができる環境が整ったときではないかと思う。

お膳立てされた親雪

低温下で降った雪は軽く乾いており、握っても固まらないためパウダースノーとも呼ばれ、一部のスキー愛好家がこの雪質を楽しんでいたが、多くは雪に親しむことはなかった。

今年59回目を迎えた「さっぽろ雪祭り」は、戦後の混乱した生活が納まりつつあった1950年、冬期間家に閉じこもりがちな札幌市民に雪に親しんでもらおうと計画され、中学生や高校生による雪像のほか、いくつかのイベントが行われた。これが好評を得たため継続して開かれるようになり、後年、一般市民による雪像や自衛隊の協力による大雪像が加わり、日本国内はもとより海外からも観光客が訪れる定例行事となった。

今では壮瞥町の「昭和新山国際雪合戦」など冬期間のイベントが各地で行われ、地域住民や観光客など多くの人々が雪に親しむようになってきているが、いずれもお膳立てされた一時のことであり、冬期間通しての親雪にはほど遠い。子供の頃興じた雪中サッカーや漕いだブランコからのジャンプ(着地点までの距離を競う)、ミニゲレンデでのスキーなどが懐かしい。お金を使わないでも工夫により雪の中の遊びを楽しむことができる。子供たちが外で遊ばなくなったと言われるようになって久しいが、子供たちが季節を問わず外で遊べられる環境作りも親雪には必要だ。

地球温暖化対策としての利雪

近年、雪に対し新たな取り組みが始まった。雪から水に変態するとき多量のエネルギーを必要とするが、それに着目した「冷熱エネルギー」としての雪の利用である。

米は本人5℃以下で保管すれば劣化が進まない。収穫翌年の春先に貯雪庫に投入した雪を冷熱源として米を低温保管し、夏に新米と変わらない鮮度の米を提供出来るようになってから10年が経っている。

北海道の夏は短いが冷房が必要なときもある。雪から冷熱を取り出し、湿気のある柔らかい冷房(涼房)を実現している建物も既にある。

冷熱利用の実績は地方都市にとどまっており、大都市での利用には貯雪庫の設置や汚れの少ない雪の確保などに課題が残るが、地球温暖化対策の一環として、是非とも推進してほしい。


羽沢昭宗(はざわ あきむね) 北海道支部長

※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。

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