現在、建築学会九州支部では、第1回目となる建築九州賞(作品賞)の審査が行われており、私は委員のひとりをしています。
応募作品は、個人事務所をはじめアトリエ派やゼネコン設計部、大手設計事務所まで多岐に渡っています。1次審査は、一般公開で行われ、当然のことながら発表者によって、場慣れしている人やプレゼンの表現技術の違いはありました。
しかしながら、今回審査する立場に立つと、作品に込めた発想や熱意を、どれだけ上手く表現出来たかが、ポイントになった気がします。
構造に関する説明を加える作品もありましたが、やはり意匠に対する発表が中心でした。残念ながら、構造設計者から、あるいは構造を表現した建物の応募はありませんでした。
鉄筋コンクリート造の建物の一部非耐力壁に、ひび割れがはいった建物がありました。
特に、住宅では損傷に対する敏感さが、住人や所有者の方と構造設計者とではかなり違っていました。
我々の立場から言えば、耐震設計の思想から、地震時に若干の損傷は想定内であり、十分耐震性能を満足していると考えます。しかしこのことを、説明する場がほとんどありませんでした。
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設計段階で、建物の安全性等をどの様に捉え、具体的な設計や構造計算に織り込んでいるか、建築主に説明する(=表現する)場があったら、状況は違っていたと思います。
構造計算適合性判定が始まり、概要書や計算書の中で、設計意図を出来るだけ記入する事が求められるようになってきました。構造設計者が、設計方針を明確に示す事は、良い方向にあると考えます。
一貫計算プログラムを道具として利用すれば良いのですが、プログラムを使う場合の仮定や条件を考慮せず、鵜呑みで使っている設計者が浮かび上がってきたように感じます。判断する(=表現する)主体は、あくまでも構造設計者です。
今まで、構造設計者は、「表現する」事が上手ではなかったし、そのような場も少なかったと思います。
これからは、構造設計者も、構造計算書をはじめ、建築主に対する説明あるいはマスコミに対しても、意思を伝える訓練を積み重ね、自己を正しく「表現する力」が、求められる時代になったと思います。
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