テレビ塔

 
テレビ塔 現況 前景
テレビ塔 現況 前景

2010年4月、建設工事中の「東京スカイツリー」が「東京タワー」の高さを追い越して日本一の塔になったというニュースがテレビで大々的に放送されました。最終的には高さ634mの塔になる「東京スカイツリー」は工事中から既に観光名所となって、東京以外の地方からも見学に訪れる人が引きも切らない状況が続いています。

「東京スカイツリー」の構造設計においては、そもそもこのような高さの塔に対しどのくらいの大きさの自然の力が加わるのかというところからその設計が始まっています。地震の力については、固有周期が10秒という塔にとっては、長周期地震動の影響が大きいことが考えられます。長周期地震動というのは地中の非常に深い所の地層条件の影響を受けます。このため、微動アレイ探査という方法により、東京の地下3kmにおよぶ地質調査を行い、その結果をもとに設計に用いる模擬地震動を作成しています。風の力については、今までの建物では考えていなかった上空の風を観測するために、観測気球(GPSゾンデ)を飛ばして風の力を測定しています。この結果をもとに、風洞実験を行って塔体にかかる風の力を定めています。このような地震や風の力に対し安全な構造とするための仕組みとして、日本古来の五重塔で用いられている「心柱」の構造を模した最新の制振システムを組み込んだ構造設計が行われています。

さて、話は変りますが私の住んでいる名古屋には、街の中心部に「名古屋テレビ塔」が建っています。この塔は今からおよそ55年前に建設された我が国で最初の展望台を有するテレビ電波送信塔です。この塔は長年にわたり名古屋のシンボルとして市民に愛されてきましたが、2011年7月からの地上デジタル放送の開始により電波送信塔が瀬戸に移るため、テレビ放送のための塔としてはその役割を終えることになります。現在、この塔を文化財として、また名古屋の観光の目玉として保存しようという運動が進んでいます。

「名古屋TV塔」は内藤多仲先生が「東京タワー」に先立ち、昭和28年に設計された高さ180mの塔ですが、その位置は100m道路といわれる名古屋中心部の道路の真ん中に建っています。当時の建設省道路局の見解は道路内には電信柱なら良いが建築物の建設は認められないというものであったといわれています。一方、この塔の建設資金を出したNHK,民放および地元財界有志としてはこの塔を名古屋の名所として文化、観光の拠点としたいとして役所との折衝を重ね、最終的には愛知県建築主事の判断で「工作物」の中に展望台などを持ち込むかたちを認めて確認申請が受理されたとの記録が残っています。

このように紆余曲折をへて建設された塔ですが、完成後、内藤多仲先生はその構造設計について以下のように述べています。『風圧は台風最大時には地震より大きいので、風圧にたいしては綿密に設計した。この塔は腰に大きい荷がついた形をしていて転倒には非常に安全である。一番苦心したのは細長いアンテナ部分の強度で、テレビ周波数の関係で太く出来ないので、ムクの丸棒として全溶接で作った。鉄骨は5節以下をリベット打ち、ペンキ塗りとし、6節以上は防錆に重点をおき、亜鉛めっき、ボルト締めとした。』当時の最新技術を駆使した設計がなされていたことに感銘を受けます。

最後に、有名な塔に用いられた鋼材の歴史をたどって見ますと次のようになっています。


1889年 エッフェル塔 錬鉄(Wrought Iron)
1958年 東京タワー 高張力鋼(SHT52、F値325N/mm2
2010年 東京スカイツリー 超高張力鋼(HT780、F値630N/mm2

塔の歴史はまさにその時代の鋼材開発の歴史とともに歩んできたことがよくわかります。

実は、昭和28年当時、「名古屋TV塔」の計画には南アルプス越しに富士山の裾野まで見えるようにしたいとの案もありましたが、高さが1000m必要ということで夢に終わったと言われています。今後もし「名古屋TV塔」をもう一度建替える時が来るならば、この夢が『正夢』となることもあり得るかもしれません。


大野富男(おおのとみお)JSCA中部支部長

※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。

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