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『地震-7』- 基準法と地震の大きさ(その2)
《建築基準法を守ると、どの程度の地震に耐えられるのか》

 
「基準法を守るとマグニチュードいくつぐらいの地震に耐えられるのか」という質問をよく受けます。
「マグニチュード」は地震そのものの大きさをあらわす単位ですが、基準法では建物の建っている場所での地震の大きさが問題となりますので、マグニチュードでは表現できません。震度いくつとか、何ガル(加速度の単位)とか何カイン(速度の単位)といった「その場所での地震の大きさ」で示します。(これについては「 『地震-3』- 地震の大きさ 」の項を参照してください。)

基準法における地震の大きさについては、基準法の歴史を紐解かねばなりません。少し長くなりますが、順にお話してみましょう。

1914年、基準法ができるより大分前のことですが、東京大学・佐野利器先生が「家屋耐震構造論」の中で「震度」の概念を提案されました。この震度は、気象庁震度と違い、地震から受ける力を自分の支えている重さと比べてどのくらいの割合いと考えるかということで、重さ100tの建物に働く地震力を1/10の10tと考えようという提案でした。(建物の重さは地球の引力(=重力加速度)で表されますので、それ以降、地震は加速度単位(=ガル)で説明されることが続いてきたようです。)

1920年に建築基準法の前身である市街地建築物法(施工規則)ができ、人の密集する市街地に限ってですが、建築物を建てるに際し、構造計算をして安全を確かめなければならないことになりました。しかし、この段階では自分の重さに耐えられるようにだけはしておこうということで、台風や地震に対する計算方法は定められていませんでした。

1923年に関東大震災が起こり、地震で多くの建物が崩壊したため、翌1924年に、慌てて地震に対する計算もしなければならないことになりました。この時採用されたのが、前述の水平震度を0.1以上とするというものでした。

1950年になって、建築基準法が制定され、それまで市街地だけで考えていた建物の安全性が、全国どこで建てる建物についても安全を考えなければならないことになりました。 この時、建物自身の重さ(自重)や建物に載せる荷重(積載荷重)、雪国の雪荷重のように、長い時間かかり続ける荷重を長期荷重とし、地震や台風のように一過性の荷重を短期荷重と呼ぶことにし、安全率のとり方を長期と短期で変える事にしました。例えば300の力まで耐えられるコンクリートの場合、短期荷重に対しては2/3の200の範囲で、長期荷重については1/3の100までに納まるようにゆとりをもって柱や梁の断面を決めるという事です。(そこまでは許すという事から、このような設計法を許容応力度設計法と呼び、現在でも使われている方法です。) この長期と短期の許容力の違いをもうけたことから、それまで地震力を支えている荷重の0.1倍としていたものが、このときから短期荷重として0.2倍を考えることになり、(表現が変わっただけで、実質的には変わりません。)その後、この0.2倍の考え方がつづきます。

1964年には、それまでの振動についての研究成果を取り入れ、地震時の建物のゆれ具合を考慮した設計方法を取り入れましたが、最下部から建物に入ってくる地震力を自重の0.2倍とすることは、従来と変わりませんでした。

1968年には十勝沖地震、1978年には宮城沖地震があり、そのつど、被害を教訓に基準法を改定してきましたが、補強筋の巻き方やピッチなどについての見直しで、地震の力そのものの変更ではありませんでした。(これらの見直しについては、「 『地震-4』- 建築基準法と地震の大きさ 」の項を参照してください。)

1981年に、それまでの地震に対する研究の成果を集大成して、基準法の地震項が「新耐震設計法」と呼ばれる方法に大改定されました。この大改定では、建物を設計する際に、二つの地震について検討することが義務付けられました。一つは、その建物が存続する間に2~3回遭遇する可能性がある中規模の地震に対する検討で、振動性状を考慮して各階に働く水平力を算出するのですが、最下部に生じる水平力を、自分が支える荷重の0.2倍を標準値としています。もう一つはその建物の存続中に遭遇するやも知れない大規模な地震に対する検討で、最下層での標準値として自分が支える荷重の1.0倍とすることになっています。そして、この法律の考え方が現在も使われているのです。

ここまでくどくどと述べてきましたが、基準法で定められている地震力は、はじめの佐野利器先生の「水平震度」の考えが脈々と流れ、どのような地震の何ガル・何カインに堪えるようにしなければならないといった記述は見当たりません。経験工学の域を出ていないように見えますが、地震被害を受けるたびに研究成果を取り入れて補強してきましたので、1995年の阪神大震災(兵庫県南部地震)の被害を分析した結果でもわかるように、地震被害を食い止める手法として一定の評価が得られています。(「 『地震-4』- 建築基準法と地震の大きさ 」の項を参照してください。)

基準法では地震規模を明記してありませんので、基準法どおりに造った場合にどの程度の地震に堪えるのかは正確に特定はできませんが、表-1に示すように、中地震は気象庁の震度階Ⅴ弱(80~100ガル)大地震は震度階Ⅵ(300~400ガル)程度の地震を想定しているといわれています。
表-1
  中地震時(一次設計) 大地震時(二次設計)
標準せんだん力係数 0.2以上 1.0以上
想定地震 建物の耐用年限中に2~3回発生する地震 建物の耐用年限中に1回発生するかもしれない地震
想定地震の震度 気象庁の震度階Ⅴ弱程度 気象庁の震度階Ⅵ程度
想定地震の加速度 80~100ガル 300~400ガル
構成部材の状況 部材は全て許容応力度内にあり大きなひび割れは起こらない。 塑性化する部材も出るが、粘りにより地震エネルギーを吸収し倒壊は起こらない
表-2
  最大加速度記録 マグニチュード
関東大震災(1923) 330ガル 7.9
十勝沖地震(1968)八戸 235ガル 7.9
宮城県沖地震(1978) 432ガル 7.4
兵庫県南部地震(1995) 818ガル 7.2
表-2に、代表的な地震の大きさを示します。 観測された最大の値であって、その地域全体がそのように揺られたわけではありませんが、 基準法で想定している大地震を超える記録もすでに出ています。 (阪神淡路大震災の兵庫県南部地震は、その中でも群を抜いて大きい加速度ですが、その被害状況調査から、 基準法がかなり有効であったと先の 『地震-4』- 建築基準法と地震の大きさ にありました。)
(HP部会 K.S)


※掲載された記事は執筆当時の法令・技術情報に準拠して執筆されています。ご留意ください。

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