鉄鋼が建築に採用され始めたのは、鉄筋コンクリートよりも古く18世紀の後半で、初期の頃は半溶融状態の鉄の鍛錬から製造される鍛鉄が主流でした。19世紀後半から溶融状態で精錬される製造法が開発され、いわゆる鋼材(steel)が一般的な構造材料となりました。そして、現在では鉄鉱石やスクラップを原材料とし、製銑、製鋼、圧延の工程を経て製品となります。近年では、連続鋳造方式が採用され、大量供給が可能となっています。鋼材は強度・靭性ともに優れ、品質の安定した材料として採用されています。因みに平成15年度では鉄骨造は、全国着工延べ床面積約1.8億m2の36.5%を占め、木造の36.1%を上回っています。
炭素含有量が1.7%以上の鉄を銑鉄、1.7%未満のものを鋼と呼びます。一般には、炭素含有量が0.035~1.7%の鉄と炭素の合金を炭素鋼と呼びます。
炭素鋼の中には、微量の各種元素(マンガン・ニッケル・クロム・シリコンなど)を添加、含有させることによって、鋼材の溶接性を向上させ、高強度が得られる溶接構造用鋼材や建築構造用鋼材があります。また、りん・銅・ニッケル・クロムなどの元素は耐食性を向上させるものとして、耐候性鋼材に利用されています。但し、その含有量によっては却って溶接性や衝撃特性を悪化させる場合があります。
鋼材の材質はJIS規格で種別、化学的成分および機械的性質が規定されています。一般構造用圧延鋼材(SS材)、溶接構造用圧延鋼材(SM材)、建築構造用圧延鋼材(SN材)などに分類されています。
また、鉄骨造建物の高層化および大スパン化などに伴い、より高度な品質が求められていることもあります。TMCP鋼、引張り強度590N/mm2級・780N/mm2級鋼材、低降伏点鋼などはこれらの要求に応じて開発されたものです。
SN材は従来の一般構造用圧延鋼材(SS材)や溶接構造用圧延鋼材(SM材)に対し、建築構造専用の鋼材として開発されました。鉄骨造建物の耐震性を確保するためには、建築物を構成する各部材の変形能力向上が重要であるとの認識が高まり、これに伴い素材としての降伏後の伸び能力向上のため鋼材の降伏比(=降伏強度/引張強度)を低く抑えた低降伏比鋼が必要になりました。SN材は降伏比を80%以下に抑え、降伏後の変形性能を確保しています。
また、建築鉄骨には他の分野と異なる形態があります。最も特徴的な構成の一つが柱梁接合部です。このような部位の板厚方向の引張耐力を高めたり、更に溶接性能を改善したこともSN材の特色です。
厚板の鋼材やその溶接性の向上も高層化や大スパン化には欠かせません。従来の鋼材では板厚が厚くなると溶接性が損なわれたり、降伏点が低くなるため、設計用強度を低減させる必要がありました。これを解消するためにTMCP鋼が開発されています。この鋼材は圧延の過程で鋼材の冷却と圧延を適切に制御することで強度を高めています。従って、合金成分含有量を低くすることが可能となり、溶接性が改善されています。板厚40mmを超えても設計用強度の低減は不要ですが、国土交通大臣認定材でなければなりません。この鋼材の降伏比はSN材と同様に80%以下に規定されています。
高張力鋼材は建築の高層化・大規模化に伴う厚肉・高強度鋼材への要請に対して開発された鋼材です。高張力鋼材として引張強さ590N/mm2級や780N/mm2級の鋼材は実用化されおり、高強度でありながら降伏比は80%以下(590N/mm2級鋼材)と低く抑え、大地震時に優れた塑性変形性能が得られます。また高靭性を考慮し、シャルピー吸収エネルギーを0℃で47Jと高く規定しています。
さらに1000N/mm2級鋼材の開発と実用化の研究が開始されています。
従来の炭素鋼よりも降伏点が低く、降伏点225N/mm2級鋼材を低降伏点鋼と呼び、その内、100N/mm2級鋼材を極軟鋼と称します。塑性変形能力に富んだ低降伏点鋼は、降伏後のエネルギー吸収能力に優れているため、制震構造用鋼材として使用されています。
従来の軟鋼に比べて強度が低く、延性が極めて高い鋼材で、制振ダンパーとして組み込むことにより、柱や梁などの主要構造部の損傷を防ぐことができます。
地震発生直後も機能が維持でき、短期間に低コストで復旧ができるという、耐震設計に要求されるこれら新たなニーズに対応して生まれたのが制振ダンパー用低降伏点鋼材です。
図1に一般鋼、高張力鋼、低降伏点鋼(極軟鋼)の応力-ひずみ関係を示します。
耐火鋼は一般の鋼材に比べ高温時の強度が高い鋼材です。耐熱性を向上させるモリブデン等の合金元素を添加することにより、600℃における耐力が常温規格耐力の2/3以上であることが保証されています。
この特性を利用し耐火設計を行うことにより、耐火被覆の低減や省略が可能となります。また、無耐火被覆とすることにより柱の径を細くしたり自由な塗装をすることができ、鉄骨建築の意匠性を向上することが可能となります。
ステンレス鋼は12%以上のクロムを含む合金鋼です。塩酸や硫酸あるいは硝酸など腐食性の高い酸が存在する環境下で、優れた耐食性を示す鋼材です。また、降伏比が60%以下であり、靭性に富んだ構造材料です。
ステンレス鋼は、その特徴である構造体の美しさを強調できるモニュメンタルな建築物などに多く使用されています。
鋼材ではありませんが、アルミニウムおよびアルミニウム合金は軽量でさびにくい特徴を活かし、家庭用品をはじめ、船舶、車両、容器、化学、電気、航空宇宙など多くの分野で用いられています。純アルミニウムは展伸性に富んでいますが、強度が低いため建築構造用途には合金元素を添加したアルミニウム合金が用いられています。
アルミニウム合金は炭素鋼に比べて比重が約1/3と軽量であることが特徴です。住宅や屋根部分の構造に多く使用されています。
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